名古屋地方裁判所 昭和45年(ワ)267号 判決 1972年7月22日
原告 小山歌子
右訴訟代理人弁護士 山口源一
同 服部猛夫
被告 大角喜代子
右訴訟代理人弁護士 花田啓一
右復代理人弁護士 長屋誠
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金五〇万円、及びこれに対する昭和四五年一月二三日から右支払済みにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め(た。)≪省略≫
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め(た。)≪以下事実省略≫
理由
≪証拠省略≫によると、原告は昭和三九年頃加藤善規と結婚し、昭和四四年四月二四日離婚し、右加藤は同年五月八日死亡したものであるが、同人は被告に対し、昭和四〇年三月、四一年二月夫々五〇万円を貸付け、これが完済された後、同年一二月二六日さらに五〇万円を月六分弁済期の定めなく貸付けた。昭和四四年五月一五日頃原告は右加藤の相続人である加藤みちゑ外三名から被告に対する右貸金債権を譲受け、その頃被告に対し口頭でその旨を通知したところ、同人は異議をとどめずこれを承諾したことを認めることができ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
≪証拠省略≫によると、被告は別紙計算書のとおり加藤善規に対し月六分の割合による利息を支払ったことが認められる。右弁済については右供述以外には他に直接証拠はないが、次の理由により右供述は信憑性がある。すなわち、≪証拠省略≫によると、亡加藤善規は高利の金融をしていたものであるが、被告は右加藤に対し、前記五〇万円の貸金債権担保のため、被告の内縁の夫石黒大義名義の約束手形一通、小切手二通を振出交付しているが、その金額はいずれも五〇万円の貸金元本と同額で、他に金利を合算した書替の手形乃至貸付証書など存在しないことを認めることができる。高利貸は通常支払をうけた利息の領収書は発行しないし、利息が未払の場合には、利息を合算して債権担保の手形を振出交付させることは公知の事実であるから、前記手形小切手が時を異にして発行されているにもかかわらず、その金額がいずれも元本金額と同額ということは、被告主張どおり利息が支払われていたことを推認させるに足る。
ところで金銭消費貸借上の債務者が利息制限法所定の制限をこえる利息を支払ったときは、右制限をこえる部分は民法四九一条により当然元本に充当されるものと解せられている。従って本件において被告が加藤善規に対し支払った利息のうち同法の制限超過部分は順次、その残存元本に充当すべきであるから、本件貸金はすでに原告が債権譲渡をうける前に元利金とも完済されていることは計算上明白である。
被告が異議なく債権譲渡を承諾していることは前認定のとおりである。従って被告は民法四六八条により前記弁済の事実を原告に対抗しえない旨原告は主張する。しかし債務者が異議をとどめない承諾をしても、利息制限法超過部分の支払については、譲受人の善意悪意の如何にかかわらず、債務者は譲受人に超過部分の元本充当によって債権が消滅していることをもって、対抗することができるものと解すべきである。蓋し、そう解さないと、利息制限法の制限を超過する利息を受領している債権者が、その債権を第三者に譲渡し本件と同様の法律関係が形成された場合、債権者は同法違反の利益を合法的に確保することができ、同法の立法精神に反する結果を招くからである。従って原告の右主張は理由がない。
よって原告の譲受債権は既に消滅して存在しないのであるからその請求は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 戸塚正二)
<以下省略>